生前、私はいわゆる貧困層というものに属していたのだろう。裕福な暮らしとはほど遠い、明日の食事すら確約されない日々を過ごしていた。幼い私の手では金を稼ぐことなどできず、家の中は常に冷たい空気が流れていた。時折、腹を空かせたまま夜を明かすことさえあった。そんな日々を思い出すと、今の暮らしがいかに恵まれているかが身に染みる。今は青年が営む喫茶店で仕事を手伝い、穏やかに過ごしている。あの時と比べればはるかに幸せだ。手伝いの仕事は忙しくとも、どこか心地よく、温もりがある。
しかし、彼と一緒にいると、どうしてもあの日のことが頭をよぎる。私の中に眠る罪悪感が時折、激しく込み上げてくるのだ。それを振り払おうと、店が開く前や午後の昼食が終わった後の時間には、店の外に出て風に当たることにしている。風が顔に触れると、少しだけその重みが和らぐように感じる。振り返れば、幼い頃はずっと息苦しさを感じていたように思う。息をつける瞬間は、彼と遊ぶ時間くらいしかなかった。それ以外の時間はずっと、未来の見えない生活に押しつぶされそうになっていた。今と違って、あの頃の私には心の拠り所など存在しなかった。
夕方、喫茶店に戻ると、ちょうど夕食の準備が整ったところだった。彼とテーブルに向かい合い、手を合わせ、出来立ての惣菜を口へ運ぶ。湯気の立つ食事を前に、私は自然と微笑んでいた。かつての私にとって、温かい食事をお腹いっぱい食べることなど夢のまた夢だった。だが、今ではそれが叶っている。私は既にこの世を去った身でありながら、その夢が現実となっているのだ。この不思議な状況を思うと、胸が熱くなり、涙がこぼれそうになる。だがそれを堪え、ただ温かい食事を味わい続けた。
ꕤ
夜中、ふと目を覚ますと、扉の隙間から淡い光が漏れているのが見えた。最初は見間違いかと思ったが、その光は月明かりのようではなく、もっと暖かみのある光だ。方向を確かめると、店内のカウンターの方から漏れているように見える。私は息を殺して扉の音が出ないよう細心の注意を払い、そっと店内を覗き込んだ。
カウンターの方に目をやると、青年が椅子に腰かけ、ランタンの小さな光をじっと見つめていた。彼は何も言わず、ただぼんやりとしているようだった。いつも元気に振る舞っている彼のその姿はどこか痛々しい。彼のそばには、小さな薬の瓶と、飲み干された空のコップが置かれていた。彼の虚ろな目は、まるで現実から逃げようとしているかのようだった。私はその姿を見て、胸が締めつけられる思いだったが、何もできない自分に歯がゆさを覚えた。
静かに部屋に戻り、ベッドに横たわる。窓から差し込む月光を見つめながら、私はどうすれば彼を救えるのだろうと考えた。彼は表面では平静を装っているが、やはり心の奥底では苦しんでいるのだろう。それは私にもよく分かってる。だが、それでも私は彼に何を言えばいいのか分からない。言葉は、いつも出る前に消えてしまう。窓の外には、雲の間から星々がかすかに輝いている。それを見つめながら、私はただ朝が来るのを待っていた。